第35号 vol.2    2004年5月7日発行 ●━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━●   NPO法人エコプラザさばえ(鯖江市環境情報学習センター)メールニュース ★━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━★  <目次>  ▽欧州自然エネルギーの取り組み その5  ▽ディーゼルエンジンは環境に悪いの?優しいの? ------------------------------------------------------ ■■欧州自然エネルギーの取り組み その5 (福井市Tさんのレポートです) ◇1月27日(火)  夕方5時10分の飛行機でデンマークのコペンハーゲンに移動。1時間ほどの飛行時間 。ヨーロッパ国内を動き回るのは国内旅行をする感覚である。  コペンハーゲンの街に入ると、自転車に乗っている人が多いのが目につく。ホテル に着いてから、近くのニューハウンと呼ばれるお洒落な場所(「新しい港」という意 味の旧い港街)に出かけて夕食を取る。 ◇1月28日(水)  午前10時、コペンハーゲン・エネルギー環境事務所(通称「エネルギー事務所」) を訪れる。  エネルギー事務所はNGOだが、ECによってデンマークの代表的なエネルギー・イン フォメーション・センターとして位置づけられている。エネルギー・インフォメーシ ョン・センターとは、政府、電力会社、メーカーのいずれとも利害関係を持たない NGOで、省エネと自然エネルギーに関する公平中立な情報を提供することを目的とし ている。対して日本ではエネルギーに関する情報のほとんどが、原発を推進する政府 と電力会社によって供給されている。大きな違いである。   エネルギー事務所は地方自治体や市民団体と協力しながら風力発電の普及に努めて きた。デンマークは世界第4位の風力発電大国だが、風力発電がこれほど普及した背 景には3つの成功要因があるという。  まず、第一に、風力発電所の80%が一般市民に所有されていることである。風力発 電所建設の担い手を電力会社ではなく、一般市民とし たことで国民の幅広い支持を 得ることができた。  第二に、電気料金固定価格買取制度(通常、Feed -in-Tariffと呼ばれている制度 )が導入されたことである。これは新しくできた風力発電所が発電する電力を固定価 格で買い取るように既存の電力会社に義務付けた制度である。この制度のお蔭で、風 力発電事業の採算性に目途が立ち、一般市民による新規参入が容易になった。  第三に、風力発電所が地域経済に貢献することが理解されたことである。どの地域 にもある風力というエネルギー資源にお金が流れる仕組みを作ったことで地域経済が 潤うようになった。  これらは、今回訪れたドイツ、スウェーデン、デンマークの三ヵ国に共通する発想 であり、エネルギー源を輸入石油や輸入ウランから、どこにでもある自然エネルギー に転換することで、産業基盤が脆弱な地域に雇用を創出することに成功している。政 治の技術、あるいは政治の芸術と言うべきものだろう。 ◇1月28日(水)  午後、デンマークの省エネの神様として尊敬されているヨハン・ノルゴー教授のご 案内で、デンマーク省電力基金を訪れる。  省電力基金は、電力に課税されるエネルギー税を財源とした組織であり、電力節約 を政策的に推進するのが目的である。  同じエネルギー関連の税金でも、日本の揮発油税は道路建設、電源開発促進税は原 発推進といった、主としてエネルギー消費の促進に使われるが、デンマークのエネル ギー税は電力節約のために使われる。考えさせられる。  また、日本の省エネ努力というと、精神主義的で、夏に役人がノーネクタイ姿にな ったり、役所の冷房の設定温度を高めにしたりするといったアリバイ工作的なもので 、果たしてどれだけ効果があるのか疑問だが、デンマークの省エネ政策には、省エネ の分野に競争原理を持ち込むことで省エネを進めようという基本的な戦略がある。  具体的には、省エネ水準によって電気商品にAからGまでランク付けすることで、 1994年には5%だったAランクの電気商品の使用率を2003年には75%まで高めるのに 成功した。  Aランクの電気商品の使用率を高めるために、Aランクの電気商品を購入した場合 には500クローネ(日本円で1万円)の補助金を出すなど、日本ではちょっと考えられ ない意欲的な政策を展開している。  一般的に、日本の政策が生産者の立場で立案されるのに対して、環境先進国の政策 は消費者の立場で立案されるという違いがあるようだ。  省電力基金のピーター・カルボ部長によれば、多くの電気商品が電力多消費型の設 計になっているのは、ただ単にメーカー側が省エネに 無頓着なためであり、省エネ の方向で政策的に競争を導入すれば、いくらでも省エネの余地はあるとのことであっ た。 ◇1月29日(木)  雪のためコペンハーゲンからフランクフルトに向かう飛行機が2時間近く遅れて、 フランクフルト空港で大阪行きの飛行機に乗り損ねてしまった。どうしようかと困っ ていたら、同じ飛行機会社の名古屋行きの便がうまい具合に遅れていたので、ぎりぎ りで名古屋行きの飛行機に乗り込むことができた。  1月19日から始まった10日間の旅がようやく終わる。環境エネルギー政策研究所の 飯田哲也所長と大林ミカ副所長に素晴らしいプログラムを作っていただいたお蔭で、 ヨーロッパにおける自然エネルギーの取り組みについて大体のイメージをつかめるこ とができた。  ここで若干の総括的な感想めいたものを述べることとしたい。 ◇歴史学者のトインビーによると、文明は文明を脅かす「挑戦」に「応戦」すること によって進歩するという。  逆に、挑戦に対する応戦を怠れば、その文明は衰退の道をたどり、やがて滅亡する ことになる。さらに、トインビーは、挑戦に対する応戦は、常に「創造的少数者」の 発見を多数が模倣することによってもたらされるという。  例えば、人類の生産力を飛躍的に高めた現在の工業社会文明は、イギリスで始まっ た産業革命を世界中の国が次から次へと模倣することで広がったものである。  18世紀に始まった工業社会文明は人類に未曾有の物質的繁栄をもたらしたが、20世 紀後半にいたって、地球温暖化という地球の破滅を招きかねない「挑戦」を受けるに いたった。  この挑戦にいかに「応戦」するかが21世紀に生きる我々の課題なのであるが、この 場合、応戦方法を考え出す「創造的少数者」は誰かというと、飯田さんによると、ス ウェーデン、デンマーク、オランダの三ヵ国なのだという。  この三ヵ国が化石燃料及び原子力から自然エネルギーへの転換が現実的な政策であ ることを自ら実証し、ドイツが先進的な模倣者という役回りで、EU諸国全体を自然 エネルギーへの転換に巻き込んでいる構図だ。  もちろん、電力会社や産業界の強力なロビー活動のため、国ごとに自然エネルギー への転換の進捗状況にはばらつきがあるが、地球温暖化という工業社会文明への挑戦 に対する応戦は、原子力ではなく自然エネルギーでなされなければならないという点 については、ヨーロッパ諸国の間で共通の認識となっていることが今回の出張で確認 された。  こうした見方をすると、京都議定書の批准を拒否しているブッシュ政権下のアメリ カは明らかに文明に対する挑戦を無視していることになる。  では、日本はどうかというと、地球温暖化という挑戦を無視しているわけではなく 、もっぱら原発の新規増設という形で応戦しようとしているのである。この応戦の仕 方については賛否の分かれるところであり、すでに述べてきたようにヨーロッパ諸国 は原発の新規増設という選択肢を頭から除外しており、国際社会では原子力を偏重す る日本の政策は極めて奇異なものとして捉えられているようだ。  ちょうど、帰国する飛行機で読んだ1月29日付日本経済新聞の一面トップの記事は 、経団連が政党評価をしたというものだった。この記事によると自民党のエネルギー ・環境政策は原子力への信頼回復を評価して「A」、民主党のエネルギー・環境政策 に対する評価は環境税への導入が掲げられているとして「D」だった。  こうした記事を読むと、一般読者は原発を推進する自民党が現実的で、環境税を導 入しようとする民主党が非現実的と思いがちではないかと危惧する。実際には、こう した形で電力会社と産業界によってじわじわ形成される日本の常識こそが世界の非常 識になりつつあるのである。  グローバルな市場で競争力を持つ強力な産業界の存在なくしては、我々が現在、享 受している物質的な豊かさを維持することはできない。  しかし、グローバル化が進む中での政治の役割は、産業界が競争力を保持できる環 境を整備することもさることながら、容赦のない経済のグローバル化に対応できない 経済的弱者に対する目配りを怠らないことではないか。  こうした意味で、自然エネルギーへの転換を単に地球温暖化という「挑戦」に対す る「応戦」としてだけでなく、グローバリゼーションの中での地方の困窮化という「 挑戦」に対する「応戦」として戦略的に位置づけているヨーロッパ諸国の試みから学 ぶところは大きいのではないだろうか。 ■■Dr.コトー・環境情報シリーズ   「ディーゼルエンジンは環境に悪いの?優しいの?」  今日本ではディーゼルエンジンと言えば環境破壊の代名詞ともされ、特に乗用車な どの小型ディーゼルエンジンは急速に減少しています。一方、ヨーロッパではディー ゼルエンジンは環境に優しいとされ人気が高く、現在40%くらいで、さらに増え続け ています。この違いはどこにあるのでしょうか。  まず、エンジンを評価する環境汚染指標ですが、代表的なものは二酸化炭素、一酸 化炭素、炭化水素、窒素酸化物、SPM(粒子状物質)です。二酸化炭素はガソリン 車が15%多い、一酸化炭素はガソリン車が3倍多い、炭化水素はガソリン車が3倍多く 、窒素酸化物はガソリン車がディーゼルの1/3位である。日本では黒煙とほぼ同義語 であるSPMはディーゼルが多い、というのが一般的データです。  歴史的に環境基準にはヨーロッパではSPMつまり黒煙量が、日本では窒素酸化物 の量が使用されてきたのです。技術的にはSPMを減らそうとすると燃料を完全に燃 やすために高圧縮高温となり、窒素酸化物は増えます。ところが、窒素酸化物を減ら そうとすると不完全燃焼となりSPMが増えるのです。日本ではこれまで窒素酸化物 を減らそうと規制したので、SPMは減らなかったのです。一方、ヨーロッパではS PMを減らそうとしたので、むしろ窒素酸化物は減らなかったのです。  つまり、歴史的に日本のディーゼルエンジンはSPMを減らす努力を怠ったので、 SPMが今問題になっているのです。いわば、政府の環境施策に欠陥があったのです 。現在ヨーロッパのディーゼル車は全く黒煙が出ません。日本でも新しい車はほとん どでなくなりました。  ヨーロッパでは平地が多く、車の走行距離が日本に比べてかなり長いと言われてい ます。ヨーロッパの燃料の値段は日本と似ていて、ガソリン100円に対して軽油70円 くらいだそうです。熱効率はガソリン車では27%くらい、ディーゼルの場合は38%く らいですからはるかにディーゼルエンジンのほうが優れています。  結果として総燃料費用ではディーゼルはガソリンの半額以下になります。二酸化炭 素も少なく、窒素酸化物は多いもののSPMも出ません。また、振動や音などは現在 ガソリン車とほとんど変わらないそうです。それほどにヨーロッパのディーゼルエン ジン技術は進んでいるのです。排気量あたりの出力もガソリン車にかなり近づいてお り、低回転でトルクが出るために運転しやすいとの評価も得ています。  日本では窒素酸化物を基準に規制されたために黒煙対策が遅れてきましたが、最近 の日本のディーゼルエンジンも黒煙は出ないそうです。SPMが少なくなれば環境汚 染指標については、窒素酸化物ではディーゼルが不利ですが、その他の項目では圧倒 的に有利なのです。さらに2003年より日本で発売される軽油の硫黄分がヨーロッパ並 みに少なくなりました。しかし、全体としては未だ日本のディーゼルエンジンはヨー ロッパよりも遅れているそうです。市場への投入数も少ないようですが、見方を変え れば日本でのディーゼルエンジンの開発の余地はまだまだあるとも言えます。  今までの日本のディーゼルは政府の施策の失敗によって環境破壊の元凶とされてき ましたが、今後はむしろガソリンエンジンよりも環境に優しいとして認知されると思 います。燃料電池や電気自動車などの実用化はまだ先の話です。私は近いうちに日本 でもヨーロッパの考え方が取り入れられると思います。(by 硬派な整形外科医) ------------------------------------------------------ □□ことばピックアップ:吉田まきこ(自然養鶏挑戦者)  「どんなことも、ひとりでは責任をとりきれないもので、   なにかあれば必ず人の手を借りることになる」  これは真実だと思う。  しかしそのあとに来る言葉は、  「人に与える影響まで考えて行動すべきだ」であるとは限らない。  「そのときは私たちが支えるから、安心してやりなさい」ときたっていい。  どちらも、個人で生きているのではないという出だしは同じなのに、  結論では両者は大きく分かれることになる。  前者は、突出した行動を抑えつけるようにはたらくし、  後者は、励ますようにはたらく。  (あるMLでの投稿から) ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ☆皆様からのフィードバック、情報提供をお待ちしています。 ☆ニュースのバックナンバーは下記ホームページで見ることが出来ます。 ☆このニュースを購読される方を是非ご紹介下さい。 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